見えない貌 夏樹静子

出会い系サイトとネット社会、裁判の行方で事件が様々な方向に展開する推理小説です。

文庫本で600頁を越えるのですが、一気に読み進められた作品です。心が通じ理解し合っていると思ってた24歳の娘、結婚して3年目で幸せな家庭生活を築いている疑わなかった娘。こまめなメールで情報交換が続いていて、本当に親孝行な娘だったのです。

そんな娘が行方不明の末、ダムに沈められた刺殺死体となって発見されます。母親は、普段使用していた携帯電話とは違う隠された携帯メールから娘の本当の貌を知り愕然とします。警察には届け出ず、娘の携帯メールから40代のメル友のある父親にたどり着きますが、横浜のホテルで母親は娘と同じような首の傷が原因で死を迎えます。さて、ここから裁判が展開し、平行するように事件は色々な方向に歩き出します。

被告人の父親、ベテラン弁護士、若手の弁護士、検察官、裁判官そして証人達が織りなすドラマが読者を魅了します。被告人の父親が殺す瞬間については二つの事件とも曖昧していることを伏線に、母子二人の殺人罪で死刑を求刑されるに至り事件は終結に向かいます。娘のメル友、娘殺しの犯人は被告人の息子であり、父親が息子を庇った事件だったのです。母親殺しについても被告の父親は殺意を否定し続けます。

愛娘を失った母親が被告人の罪状を極刑にするために自らナイフを首に当てたのではないかとの推察を残しながら小説も終わります。この作品は推理小説でありながら、我が子を思う肉親の愛とは何かを考えさせる作品でもあります。それぞれ立場の違う母親と父親の行為は、法律的にはもちろん人としても決して許されるものではありません。しかし「至誠の愛」のどこかにほんのわずかに触れていると言っては言い過ぎでしょうか。